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うつ病エピソードチェック表

第1部 プログラム開発の経緯

3.うつ病とは何か

 今やうつ病は,精神科だけの問題ではなく,保健医療福祉全体の問題,社会全体の問題として認識される必要があります.それでは「うつ病」とはいったいどのような病気なのでしょうか.
 うつ病とは,「うつ病エピソード」と呼ばれる一連の症状が認められる気分障害の総称です.米国精神医学会の気分障害の分類では,経過中にうつ病エピソードのみが見られるものをうつ病性障害と呼び,うつ病エピソードと躁病エピソードの両方が見られるものを双極性障害と呼んでいます.

●図3.高齢者のうつ病の背景要因と他の健康問題に及ぼす影響図3.高齢者のうつ病の背景要因と他の健康問題に及ぼす影響

 うつ病エピソードには9つの症状があります(図4).この9つの症状のうち5つ以上が,過去2週間以上にわたって,ほとんど毎日,ほとんど1日中認められ,その症状のために著しい苦痛を感じているか,社会生活や職業生活に支障を来たしている場合に「大うつ病エピソード」という診断をくだします.
 うつ病には,多くの場合,「ライフイベント・ストレッサー」と呼ばれる発症のきっかけがあります.それは健康,職業,経済,役割,対人関係の問題などで,高齢者の場合にはひとことでいうと「複合的な喪失体験」と呼ばれるような状況がしばしば発症のきっかけになります.健康を失い,職業を失い,収入が減少し,社会や家庭の中での役割を失い,大切な人と死別したりする,そういったことを喪失体験と呼んでいます.こうしたストレッサーを,心理社会的な準備因子のある個人(うつ病になりやすい人)が経験したときにうつ病が発症するといわれています.この心理社会的な準備因子には,いわゆる「うつ病親和性性格」と呼ばれているような性格傾向と,ソーシャルサポートの欠如といった社会状況などがあります.うつ病親和性性格というのは,過剰に秩序を志向する傾向や,過剰に役割を志向する傾向で,過度の几帳面さや他者配慮性(周囲の人に気を使いすぎる)といった特徴をもつ人柄です.また,ソーシャルサポートというのは,人と人との結びつきの中で得られるさまざまな支えのことで,困ったときに相談できる人がいるとか,病気のときに助けてくれる人がいるとか,そういったもののことを言います.
 一方,このようなライフイベント・ストレッサーに晒されると,脳の中のセロトニンやノルアドレナリンなどのモノアミンと呼ばれている物質の需要が高まることが知られています.しかし,生物学的な準備因子として,例えば遺伝的にモノアミンが関係している神経系に機能的な脆弱性(弱点)がある場合や,脳血管障害があったり,産後に急激な内分泌系の変化が起こっているときなどは,モノアミン系の機能障害が現れやすく,生物学的にもうつ病になりやすい状況が作られていると考えられています.そのために,うつ病では,心理社会的な治療ととともに,抗うつ薬などによる生物学的な治療が必要になる場合があります.

●図4.うつ病エピソードの症状図4.うつ病エピソードの症状