トップページ > うつ病エピソードチェック表 > 第1部 プログラム開発の経緯|2.高齢者のうつ病と介護予防
2.高齢者のうつ病と介護予防
高齢者のうつ病は頻度も高く,地域在住高齢者の10%前後,入院中の高齢者の30%程度に及ぶといわれています.
また,これまでの疫学的研究から,高齢者のうつ病には,さまざまな人口統計学的要因,身体的・精神的な健康要因,社会的要因が関連しており,一方,うつ病はそれ自体が高齢者のさまざまな健康問題の転帰に影響を及ぼすことも明らかにされています(図3).すなわち,高齢者のうつ病は心疾患,脳卒中,運動機能低下,認知症のリスクファクターであり,転倒,骨粗鬆症,ADL低下,要介護状態への移行,医療費増大と密接に関連し,自殺による死亡とともに,一般身体疾患による死亡率も高めることが明らかにされています.地域に暮らす60歳以上のうつ病高齢者の追跡調査のまとめでは,その21%が2年後に死亡しているという結果も報告されています.この死亡は主として身体疾患の悪化によるものです.うつ病になると体の病気の治療が遵守されなくなり,食欲低下のために栄養障害が生じ,免疫機能が低下するために感染症がおこりやすくなり,心疾患や脳卒中の発症リスクも高まります.そういったこと全体が死亡率の上昇に関係しているのであろうと考えられています.しかも,この死亡率上昇には,うつ病のことが一般の人々によく「知られていない」こと,そのために「発見されない」こと,そしてそのために「ケアされない」ことが関係しています.
つまり,自殺予防のみならず,介護予防や健康寿命の延伸,高齢者の生活の質の向上という観点からも,地域に暮らす「うつ」高齢者を早期に発見し,適切な治療とケアを提供し,うつ病そのものを予防していくことが,きわめて重要な意味をもつわけです.