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うつ病エピソードチェック表

第1部 プログラム開発の経緯

1.高齢者のうつ病と自殺予防

 今,世界では,年間に約100万人が自殺で死亡しており,その10倍から20倍,つまり1,000万人から2,000万人が自殺を企図していると推計されています.時間に換算すると,40秒に1人が自殺で死亡し,3秒に1人が自殺を企てているということになります.自殺は,今や世界規模でたいへん大きな社会問題になっています.
 しかし,自殺率の高さには地域性があり,世界の中でも,ヨーロッパ,東アジア,オセアニア,そしてキューバやスリランカが,自殺率の高い地域としてよく知られています.その中でもわが国の自殺率はかなり高い方で,WHOに登録されているデータをみると,世界の中の上位10位前後に位置しているようです.しかも,日本より自殺率の高い国は,そのほとんどが旧ソ連や旧共産圏の国々であり,20世紀末に社会経済的な大変動を経験した国ばかりです.以前より自由主義圏にあった先進諸国の中では,日本の自殺率は抜きん出て高く,アメリカの2倍,イギリスの3倍に及んでいます. 図1は,わが国の性別年齢階級別自殺率の推移を示しています.男性では50代に自殺率のピークが見られますが,男女共に75歳以降の後期高齢期に急峻に高まりゆくスロープが認められます.後期高齢期の高い自殺率は先進諸国に共通する特徴ですが,わが国にも同様の傾向が認められています.
 それでも,この後期高齢期の自殺率は,近年では少しずつ減少の兆しが見えはじめてきています.2000年に介護保険制度が施行されてから,高齢者のためのさまざまな社会資源の増加が,多少なりともわが国の高齢者の自殺率減少に影響しているのかもしれません.しかし,図2に示されているように,自殺による死亡者数で見ると,後期高齢者の自殺者数そのものは,決して減少しているとは言えないことがわかります.特に男性の後期高齢者の自殺者数は全年齢層に亘って増加しています.高齢者人口が急速に増大する中で,わが国の高齢者の自殺の問題は今尚深刻な状況にあります.
 高齢者の自殺はうつ病とたいへん深い関係にあります.自殺で死亡された人の家族や関係者から,自殺で死亡された本人の死亡前の情報を綿密に収集し,生前に何らかの精神疾患がなかったかを調査する研究を心理学的剖検研究と呼びます.コンウエルという研究者は,55歳以上の中高齢者の心理学的剖検研究についてまとめており,それによれば自殺者の70%以上に気分障害(うつ病)が認められたと報告しています.わが国の中高齢期の自殺者の70%以上においても,生前にうつ病が認められていた可能性があります.

●図1.わが国の性別年齢階級別自殺死亡率の推移図1.わが国の性別年齢階級別自殺死亡率の推移
●図2.わが国の性別年齢階級別自殺死亡者数の推移図2.わが国の性別年齢階級別自殺死亡者数の推移