4.アセスメントプログラム
アセスメントプログラム
これから抑うつ高齢者等地域ケア事業の中のアセスメントプログラムについてお話いたします.
うつ高齢者のための地域ケアプログラム
まずは,抑うつ高齢者等地域ケアプログラムの全体像を復習します.このプログラムは普及啓発プログラム,アセスメントプログラム,相談プログラム,訪問ケアプログラム,チームケースマネジメントプログラム,地域活動を強化するためのプログラムという6つのプログラムで構成されています.アセスメントプログラムはこの中の2番目のプログラムです.
アセスメントプログラムとは(1)
アセスメントプログラムは,日常の保健医療福祉活動の中で,うつ病や自殺リスクなど,ハイリスク状態にある高齢者を発見することを目的としています.このプログラムの中で,第一段階では「抑うつ症状」や「精神的な健康度」を簡単にチェックし,第二段階で「うつ病エピソードの可能性」やその他の精神障害,自殺リスクなどを詳しく評価することができます.
アセスメントプログラムとは(2)
第一段階のアセスメントは一次アセスメントと呼び,第二段階のアセスメントは二次アセスメントと呼びます.二次アセスメント陽性者に対しては,相談プログラムや訪問プログラムなどの利用を勧め,介入につなげます.
アセスメントプログラムの実際
それでは,一次アセスメントの実際について解説いたします.
一次アセスメントとは
一次アセスメントでは,簡便な質問紙を用いて,「うつ症状」や「こころの健康度」のアセスメントを行います.ツールとしては,介護予防アセスメントの「基本チェックリスト」の21〜25の項目や「WHO-5こころの健康状態表」を使用することができます.アセスメント陽性例に対応できるように,アセスメントツールは,「抑うつ高齢者等地域ケア事業」など,二次アセスメント,相談プログラム,訪問プログラム,ケースマネジメントプログラムなどと連動している事業の中で使用します。
一次アセスメントの流れ
仙台市の事業では,一次アセスメントでは介護予防基本チェックリストにある5項目の質問を使用し,さらに,この5項目の質問で2点以上のケースに対して,暫定二次アセスメントを実施します.この暫定二次アセスメントでは「うつ病エピソード」に関する2項目の質問をします.2項目の質問で1点以上,つまりいずれか1項目以上に該当した場合に,二次アセスメントを行います.
介護予防チェックリストの「うつ」に関する5項目
これは介護予防チェックリストの中にある「うつ」に関する5項目の質問です.
(ここ2週間)毎日の生活に充実感がない.
(ここ2週間)これまで楽しんでやれていたことが楽しめなくなった.
(ここ2週間)以前は楽にできていたことが今ではおっくうに感じられる.
(ごこ2週間)自分は役に立つ人間だとは思えない.
(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする.
これらの項目について,「はい」「いいえ」で回答し,「はい」と答えた場合1点,「いいえ」と答えた場合はO点とします.本人が自分で読んで自分でチェック(自記式)してもかまいません.このアセスメントで2点以上の方には,さらに,
A1 抑うつ気分
「悲しかったり,落ち込んだり,憂うつだったりすることがありますか」と聞き,「はい」の場合はAlaに,「いいえ」の場合は次の質問のA2に行きます.Alaでは,「その状態はいつ頃から続いていますか」と聞いて,( )にそれを記載します.回答が「2週間以上続いている」に該当する場合は,「その状態はほとんど毎日,ほとんど一日中続いていますか」と聞きます.回答が「はい」の場合には,「抑うつ気分あり」と評価してA2の質問にいきます.
A2 興味、喜びの喪失
A2の質問では,「仕事や趣味,あるいは普段楽しみにしていることなど,たいていのことに興味がもてないですか」と聞きます.「はい」と回答した場合はA2aに行き,「その状態はいつ頃からつづいていますか」と聞きます.その答えを( )に記載し,それが「2週間以上続いている」に該当すればA2bに行きます.「その状態は,ほとんど毎日,ほとんど一日中続いていますか」と聞いて「はい」と答えれば「興味・喜びの喪失あり」と評価し,暫定二次アセスメントを終了します.
一次アセスメントの終了
これらのアセスメント終了時点では判定結果は特に説明しません.「ご協力ありがとうございました.結果を判定してから,必要に応じて看護師または保健師が後でご連絡いたしますので,どうぞよろしくお願いいたします」と述べて終了します.但し,一次アセスメントの時点で,緊急の対応が必要と思われるケースに対しては,しばらく話しを傾聴し,事業コーディネーターと相談するなどして対応を検討します.
演習1
皆さんに一次アセスメントの練習をしてもらいます.2人ずつペアになって,評価者役と高齢者役に分かれます.評価者役の人は,基本チェックリストを使って,高齢者の抑うつ症状の有無をチェックしてください.
二次アセスメントの実際
次に,二次アセスメントの実際について説明いたします.
二次アセスメントとは(1)
二次アセスメントとは,一次アセスメント陽性者に対して,保健福祉専門職が戸別訪問などをして,第二段階のアセスメントを行うものです.二次アセスメントでは,「うつ病」の可能性,「自殺リスク」の程度,「不安障害」,「身体表現性障害」,「アルコール関連障害」の可能性,「生活障害」の程度,「受診行動」などが評価されます.
二次アセスメントとは(2)
二次アセスメント陽性者に対しては,保健福祉専門職がアセスメントの結果をわかりやすく丁寧に説明します.また,「支持的なケア」を行いながら,必要な情報を提供し,相談プログラムや訪問プログラムの利用を勧めます.
二次アセスメントとは(3)
緊急を要する場合には,まずは事業コーディネーターと相談し,必要に応じて相談医や医療機関と連携します.介入が必要と思われるにも関わらず拒否された場合,スクリーニングは陰性でも明らかに介入が必要と思われる場合には,ケースカンファレンスなどを利用して,今後の対応の方針を検討します.
うつ病エピソードの9つの症状(1)
これは大うつ病エピソードの診断基準にある9つの症状を漫画であらわしたカードですが,二次スクリーニングではまずこれらの項目からチェックしていきます.
うつ症状アセスメント
これは厚生労働省の研究班が作成した介護予防の「うつ予防・支援マニュアル」に掲載されているアセスメント表です.これを用いてうつ病を評価することもできます.
二次アセスメントの導入
二次アセスメントを導入するときは,たとえば,「○○さん,今日は時間をとっていただいてありがとうございます.先日のアンケート調査で,○○さんは最近○○○(例:元気がでない)ということでしたので,今日は訪問させていただきました・・・・・」といった感じではじめます.
A1 抑うつ気分
抑うつ気分は,「悲しかったり,落ち込んだり,憂うつだったりすることがありますか」と聞き,「はい」の場合はA1aに,「いいえ」の場合は次の質問のA2に行きます.A1aでは,「その状態はいつ頃から続いていますか」と聞いて,( )にそれを記載します.回答が「2週間以上続いている」に該当する場合は,「その状態はほとんど毎日,ほとんど一日中続いていますか」と聞きます.回答が「はい」の場合には,「抑うつ気分」があると評価します.
A2 興味、喜びの喪失
興味・喜びの喪失については,「仕事や趣味,あるいは普段楽しみにしていることなど,たいていのことに興味がもてないですか」と聞きます.「はい」と回答した場合はA2aに行き,「その状態はいつ頃からつづいていますか」と聞きます.その答えを( )に記載し,それが「2週間以上続いている」に該当すればA2bに行きます.「その状態は,ほとんど毎日,ほとんど一日中続いていますか」と聞いて「はい」と答えれば「興味・喜びの喪失」にチェックします.
A3 食欲の減退または増加(減退)
食欲の減退では,「いつもより食欲がないですか」と聞きます.「はい」と回答したらA3-1aに行きます.「その状態は2週間以上続いていますか」と聞き,「はい」であれば,「食欲の減退」にチェックし,A3-2に行きます.「減量しようとしていないのに体重が減っていますか」と質問して「はい」と答えたら,「いつもの体重と比べて,今はどのぐらい減りましたか」と聞きます.( )kg減少と記載し,「それが3kg/月以上の減少がある」に該当すれば,再び「食欲の減退」にチェックします.
A3 食欲の減退または増加(増加)
食欲の増加については,「いつもより食欲がずっと増えていますか」と聞きます.「はい」と答えたら,「その状態は,2週間以上続いていますか」と聞きます.「はい」の場合は「食欲の増加」にチェックします.「食欲が非常に増進して,体重が増えていますか」という質問もします.「はい」と答えたら,「いつもの体重と比べて,今はどのくらい増えましたか」と聞きます.( )kg増加と記載し,3kg/月以上の増加の場合,「食欲の増加」にチェックします.
A4 睡眠障害
睡眠障害については,「ほとんど毎晩眠れないですか」「寝つきが悪かったり,夜中に起きたり,朝非常に早く目覚めたりすることはありませんか」と聞きます.「はい」と答えた場合には,「その状態は2週間以上続いていますか」と聞きます.「はい」と答えた場合には「睡眠障害」をチェックします.眠れている人には過眠をチェックします.「毎日眠り過ぎますか」と聞いて,「はい」と答えたら,「その状態は2週間以上続いていますか」と聞きます.「はい」であれば睡眠障害」にチェックします.
A5 精神運動の障害(制止)
精神運動の制止は,「話し方や動作が普段より遅くなっていますか」と聞きます.「はい」と答えたら,「その状態は2週間以上続いていますか」と聞きます.「はい」と答えたら,「話し方や動作が遅くなったと誰かに言われますか」と聞きます.「はい」と答えたら「精神運動の障害(制止)」にチェックします.
A5 精神運動の障害(焦燥)
精神運動の焦燥は,「いつも動き回っていなくてはならない,つまり,じっと座っていられず,うろうろしていたり,座っている間も手をじっとさせていられなかったりしますか」と聞きます。「はい」と答えたら「その状態は2週間以上続いていますか」と聞きます.「はい」と答えたら,「いつも動き回っている,と誰かに言われますか」と聞きます.「はい」と答えたら,「精神運動の障害(焦燥)」にチェックします.
A6 疲れやすさ、気力の減退
疲れやすさ・気力の減退は,「いつもより疲れたり,気力が低下していると感じていますか」と聞きます.「はい」と答えたら,「その状態は2週間以上続いていますか」と聞きます。「はい」と答えたら,「疲れやすさ・気力の減退」にチェックします.
A7 強い罪責感
強い罪責感は「自分は価値のない人間であると感じたり,罪悪感を感じたりしていますか」と聞きます.「はい」と答えたら,「その状態は2週間以上続いていますか」と聞きます.「はい」と答えたら,「強い罪責感」にチェックします.
A8 決断困難、思考力の減退、集中力の減退
集中力減退は,「物事に集中するのが普段よりずっと難しいですか」と聞きます.「はい」と答えたら,「その状態は2週間以上続いていますか」と聞きます.「はい」と答えたら「集中力減退」にチェックします.思考力の減退は,「普段より考える速度がずっと遅くなったり,考えがまとまらなくなったりしていますか」と聞きます.「はい」と答えたら,「その状態は2週間以上続いていますか」と聞きます.「はい」と答えたら,「思考力減退」にチェックします.決断困難は,「普段なら問題なく決められることが,なかなか決められなくなっていますか」と聞きます.「はい」であれば,「その状態は2週間以上続いていますか」と聞きます.「はい」であれば,「決断困難」にチェックします.
A9 自殺への思い
自殺への思いは,「死について何度も考えたりしますか」と聞きます.「はい」と答えたら,「その状態は2週間以上続いていますか」と聞きます.「はい」と答えたら,「自殺への思い」にチェックします.「気分がひどく落ち込んで自殺について考えることがありますか」と聞きます.「はい」と答えたら,「その状態は2週間以上続いていますか」と聞きます.「はい」と答えたら,「自殺への思い」にチェックします.「どうやって自殺するか具体的な計画を立てましたか」と聞きます.「はい」と答えたら,「自殺への思い」にチェックし,「どのようなやり方で自殺しようと考えましたか」と聞きます.具体的内容を括弧内に記載し,「実際に自殺しようとしましたか」と聞きます.「はい」と答えたら,「自殺への思い」にチェックします.
うつ病エピソードの9つの症状(2)
このようなカードを使って,過去2週間以上にわたって,ほとんど毎日,ほとんど一日中続いている症状を○で囲み,必須症状である「抑うつ気分」か「興味・喜びの喪失」のいずれかを含む5個以上の症状が該当すれば大うつ病,2〜4個で小うつ病を疑います.
うつ病エピソードチェック表
これは若い人用に作られているカードです.このカードには,質問の仕方が横に記載されています.
A項目の評価と対応
A1〜A9まで,ひとつも該当しない場合は,「以上で質問は終わります.ご協力ありがとうございました」と言って面接を終了します.A1〜A9まで,ひとつ以上の該当項目がある場合は,A10「不安」,A11「身体症状」,A12「アルコール」,A13「受診行動」,A14「生活への支障」,A15「過去のエピソード」に進みます.A9「自殺への思い」があった場合,①話をよく聞いた上でA10〜A15を評価し,②相談プログラムの利用や医療機関受診を勧め,③スーパーバイズやケースカンファレンスを利用し,④介入方針を立てます.④緊急性がある場合には事業担当コーディネーターまたは障害高齢課に緊急連絡します.
A10 不安症状
不安症状をチェックするには,「わけもなく不安になったり,気持ちが落ち着かなくなったりすることがありますか」と聞きます.あれば,「不安症状」にチェックします.また,「突然ひどく不安になることがありますか」と聞きます.「はい」と答えれば,「不安症状」にチェックします.
A11 原因不明の身体症状
原因不明の身体症状については,「過去1ヶ月間にわたって,原因がわからない持続的な痛みや身体症状に悩まされているということはありませんか」と聞きます.例えば,頭痛,胸痛,腹痛,腰痛,めまい,ふらつき,息苦しさ,ものが飲み込にくい,吐き気,下痢,頻尿,皮膚の発疹,しびれ,うずき,などがあります.「はい」と答えれば,「原因不明の身体症状」にチェックします.
A12−1 アルコール関連障害の可能性
アルコール問題については,まず,「飲酒量を減らさなければならないと感じたことがありますか」と聞きます.「はい」と答えたら,「アルコール関連障害の可能性」にチェックします.
A12−2 アルコール関連障害の可能性
また,「他人があなたの飲酒を批難するので気にさわったことがありますか」と聞きます.「はい」と答えれば,「アルコール関連障害の可能性」をチェックします.
A12−3 アルコール関連障害の可能性
自分の飲酒について,悪いとか,申しわけないと感じたことがありますか.「はい」と答えれば,「アルコール関連障害の可能性」にチェックします.
A12−4 アルコール問題
「神経を落ち着かせたり,二日酔いを治すために,迎え酒をしたことがありますか」と聞きます.「はい」と答えたら,「アルコール関連障害の可能性」にチェックします。
A13 受診行動
最後に,「まとめると○○さんには,これまでに○○○(A1〜A12までの該当項目)といったことがあったのですね.このようなことについて,医者や専門家,ご家族や友達などに相談なさいましたか」と聞きます.「はい」と答えたら,「何科を受診されましたか」と聞き,該当項目をチェックします.また,「お薬はどんなものですか」と聞き,再び該当項目にチェックします.また,その他そのことについて,その他の専門家に相談なさいましたかと聞き,対象を選択します.
A14〜A15 生活の支障、過去のエピソード
さらに,生活への支障については,「○○さんは,○○○(A1〜A12までの該当項目)のために,仕事や家事ができなかったり,家族の世話や自分自身のことができないなど,生活や活動にどのくらい支障が生じましたか」と聞きます.「たいへん」と答えた場合に,「生活への支障(機能障害)」にチェックします.さらに,「○○さんは,以前にも同じようなこと(A1〜A12までの該当項目)を経験したことがありますか」と聞きます.「はい」と答えたら,「最初にそのような状態を経験したのは何歳のときでしたか」と聞き,( )に記載します.最後に,「以上で質問は終わりです.ご協力ありがとうございました」と言います.
「A9 自殺への思い」があった場合
最終的には,A9「自殺への思い」があった場合は,相談・訪問プログラムの利用を勧めます.あるいは,A1〜A8のうち2項目以上が(+)の場合は(つまり小うつ病以上),「不安症状」,「原因不明の身体症状」,「アルコール関連障害の可能性」,「生活への支障」のいずれかがあれば,相談・訪問プログラムの利用を勧めます.A1〜A8のうち1項目だけが(+)の場合は,「不安症状」「原因不明の身体症状」「アルコール関連障害の可能性」のいずれかがあって,かつ「生活への支障」があれば,相談・訪問プログラムの利用を勧めます.
演習
二次アセスメントは少し複雑ですので,はじめのうちは9つのうつ病エピソードの症状に習熟することからはじめるとよいかと思います.演習では,二次アセスメントの中の「うつ病の可能性」を評価する方法を練習したいと思います.2人ずつペアを組み,評価者役と高齢者役を決めてください。評価者役の人は,高齢者役の人に,うつ病エピソードの9つの症状についてインタビューし,大うつ病または小うつ病の可能性について評価してください.これでアセスメントプログラムの説明を終わります.