健康情報誌の発行・提供、講演会・セミナーの開催など
講演会・セミナーの開催
各支部では、地方自治体・企業および諸団体と協力して、各種講演会・セミナーを実施し、健康づくりの推進につとめています。
健康増進に伴う知識の普及啓蒙事業の一環として、健康に関連する各地域の自治体、団体等の協力、後援を得て一般国民や自治体、企業等の健康管理者を対象に「健康日本21」の推進と健康管理のあり方等についての講演会・セミナーを実施しています。
今後の医療の在り方と健康管理の方向性
■迫井氏(厚生労働省 保険局 医療課長)
日本は、急速な少子高齢化と人口減の社会が到来していますが、地域によって異なる高齢化の実相が見えてきます。地域ごとの“地域のあるべき医療の姿”を共有して、生活視点を踏まえた医療への転換を図り、介護や地域づくりと連携し、医療を含む「ご当地システム」を構築する必要があります。
私見になりますが、地域包括ケアを、「地域」で「包括ケア」を提供する、「地域」が「包括ケア」を提供するというように、“掛け言葉”で考えていくとわかりやすいのではないでしょうか。居場所の提供、生活・家事の援助、訪問診療、看護・リハビリテーションなどの地域で必要なサービス提供とともに、医療や介護の専門家のほかに、高齢者本人や住民によるボランティアなどが連携する、地域が必要とするサービス提供づくりが、地域包括ケアシステムの目指すべき姿です。
ただ、地域によって“スピード”と“程度”が異なるため、それぞれの地域で実現するための考え方や概念を整理して、システムの構築を推進しなければならないと思います。地域の実情に応じた体制づくりが不可欠です。
実際には、医療だけでは高齢者ケアは成り立たず、包括的なケアの提供が必要で、元気な高齢者自身やNPOなどの多様な主体が、高齢者の自助/互助を引き出す「地域づくり」と、専門職を中心にした「医療・介護」の両輪が不可欠です。地域社会の期待に応える「ご当地システム」の構築に向けて、総力戦で取り組むことが必要になってきます。
■山本氏(一般財団法人医療情報 システム開発センター 理事長)
医療IT化の進展の歴史を振り返ってみると、1970年代に医事システム、レセプトコンピュータの普及が始まり、1990年代に入ると電子カルテの実験的開発が行われ、1999年には診療録等の電子媒体への保存が可能になりました。そして、2005年の個人情報保護法の施行を境に、医療のIT化がより具体的に進み、データ指向の時代に入り現在に至ります。
具体的なデータとしては、特定健診情報等データベース、介護認定データベース、全国がん登録、心臓カテーテルデータベースなどです。
全国がん登録は、日本でがんと診断されたすべての人のデータを、国で一つにまとめて集計・分析・管理する新しい仕組みで、この制度は2016年1月から始まりました。この制度がスタートしたことで、居住地域にかかわらず、全国どこの医療機関で診断を受けても、がんと診断された人のデータは、都道府県に設置された「がん登録室」を通じて集められ、国のデータベースで一元管理されるようになります。
このような特定健診やレセプトなどから得られたデータの分析に基づいて実施される、効率のよい保健事業をデータヘルスと呼びますが、この動きの背景には高齢化や生活習慣病の増加にともなう医療費の高騰があります。これらのデータを活用することで、保険事業をより効率的に行っていこうとするのが狙いです。
データ化された健康情報、健診情報は個人情報として保護され、電子化診療情報は安全管理されなければなりません。とくに、電子化診療情報は機密性・可用性・完全性が守られ、高度な可用性の最優先が求められます。
実際に、標的型メールによる攻撃が存在し、100%事前に防止することは困難です。共有フォルダには患者情報を置かない、OSのセキュリティパッチを確実に適用するなどの予防措置で対応していかなければなりません。
■今村氏(公益社団法人 日本医師会 副会長)
日本は世界トップクラスの長寿国として君臨していますが、健康寿命との格差も浮き彫りになっています。「健康寿命の延伸」は、日本再興戦略として平成25年6月14日に閣議決定され、日本医師会としても健康寿命の延伸に必要な取り組みを行っています。
おもには3つあり、取り組み@は、個々人の健診・検診データ等の一元的な管理。医療等IDを活用して、蓄積されたデータを国民の健康管理に反映されるような仕組みを講じます。
取り組みAは、糖尿病重症化予防や、健康経営、かかりつけ医機能の充実。平成28年3月24日に、日本医師会、日本糖尿病対策推進会議、厚生労働省の三者による「糖尿病性腎症重症化予防に係る連携協定」を締結し、地域における取り組みの促進を図ることとしました。また、企業が行う「健康経営」への支援・協力を行います。
取り組みBは、住環境の整備。高齢者の居住環境における健康障害も指摘されています。さまざまな調査を実施して、エビデンスを積み重ねていくことが不可欠で、医学の知見を踏まえて、医療と住宅建築の関係者が連携し、議論を深めていく必要があると考えています。
「医療のICT化に向けて」については、日本医師会では「日医IT宣言2016」を行い、医療等分野専用ネットワークの構築を進めていく考えを示しています。医療・介護の分野におけるICT化については、関係省庁間で連携、情報の共有を図って、従来のようなシステムありきの進め方ではなく、現場の意見を踏まえた視点を反映させて、広く普及させることが重要だと考えています。
最後のまとめとして、わが国が誇る、世界に冠たる社会保障制度を将来にわたって守っていくためには、健康寿命の延伸の取り組みが不可欠です。日本医師会として、行政、医療関係者、医療保険者、各企業等と連携・協力して、積極的に取り組んでいきたいと考えています。